森川拓野(もりかわたくや)、31歳。 村上春樹の小説から出てきたような、不思議な眼光を放った青年は、親近感の中にどこか神秘的な知性をまとい、柔らかなオーラを放っている。 話しはじめると、実に爽やかで、闊達さがプクプクと溢れ出し、すぐさま我々を魅了する。それは、大人になって久しく感じていなかった、どこまでもよどみない、明るく澄んだ期待感のようなものだ。彼のことを知らずにはいられないと、心から感じた。
産業ロボットの開発者である父と、花をこよなく愛する母に育てられた男の子は、幼少期から新しいモノや美しいモノを作る現場の「すぐ隣」にいた。 そしてそれが、なんの障害もなく、「すぐ隣」から「目の前」に変わることとなる。 美容師の姉の影響もあって、高校時代にファッションに目覚めた。アルバイトでお金を貯め、無理してでも有名ブランドの服を買うようになるが、同時に、カゴ作りやニット作りが趣味であった母に洋裁を習い始める。そこで気付くのだ。
本当に好きなものは、「買う」よりも「作る」方が面白いのだと。
大好きだという感情。綺麗なモノを作りたいという願い。そしてそれを大切に育てようという情熱。 そんな、心の中にある“形のないモノ”が、“形あるモノ”を生み出す時間は、何処までも自由で刺激的だった。 そして気がつくと、ファッションデザイナーとしての自分が、すぐ「目の前」に立っていた。
類は友をも呼んだ。文化服装学院に進学し、たくさんの戦友に恵まれた。コムデギャルソン最年少デザイナーとなった丸龍文人や、 .efiLevol(エフィレボル)のデザイナー飛世拓哉は同窓生である。お互いに良きライバルとして、かけがえのない友情を育みながら、新しい時代の才能を秘めた若者は、ファッション業界で生きていくための楽しい「覚悟」を決めたのだ。
デザイナーとして独り立ちした今、彼はしっかりとした口調で未来への野心を語ってくれた。(つづく)
※TaaKKの世界観は、こちらでお楽しみください
第1回:『TaaKKが出来上がることの意味』
第2回:『捨ててあるものを拾い、可能性を作る』
第3回:『本当に好きなものは、自ら生み出せ』
第4回:『美しいモノ、新しいモノの先へ』