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「貧乏というものは嫌いである」伊丹十三

ところで、これまた余談であるが、わたくしは、過去に、随分貧乏してきたから、貧乏というものは嫌いである。貧乏そのものは何とも思わないが、貧困に由来するもの、つまり「貧ゆえの」という感じがやり切れない。

 

地下鉄なぞという愚劣なものには一生乗りたくない。国電もいやだ。タクシーさえも大嫌いである。折り畳式の蝙蝠傘、和式便所の蓋、電話の呼び出し、熱海へ一泊旅行に出かけた隣の小母さんから、小田原かまぼこのおみやげを貰うこと、プラスチックの麻雀牌、こういうもの一切が、わたくしは大嫌いだ。そこで、ビートルズ・ルックであるが、やはり下層階級の流行である。その、キューバン・ヒールのブーツも、ビニールの奴なんかを売ってる店がある。これは、ビニールのスキー靴と同じに悲しいものだよ。

 

伊丹十三 / ヨーロッパ退屈日記 (新潮文庫)

 

 

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